鳥跡詩集

六月偶成




庭中ていちゅう樹下じゅか 紫陽しようはな
戸外こがい秧田おうでん 両部りょうぶ
ひと文房ぶんぼうすも かんべるにものう
微風びふう あめまじえて 窓紗そうさとお
七言絶句。韻字――花、蛙、紗(下平声六麻)。
二〇二三年六月
春日堀川尋桜花




佳日かじつ 堀川くつせん つえたずさえてたずぬれば
桜花おうか 碧水へきすい すで春深はるふか
跫然きょうぜんとして客到きゃくいたり みちたし
人語じんご 瀬声らいせい 皆好音みなこういん
七言絶句。韻字――尋、深、音(下平声十二侵)。
二〇二三年四月六日
無題




九重きゅうちょうてん七遊星しちゆうせい
光彩こうさい 陸離りくりとして紺青こんじょうたす
わらなかれ 詩中しちゅう上界じょうかいするを
庶幾こいねがわくは きみなが下方かほうとどまらんことを
七言絶句。原詩:A.E. Housman, Additional Poems V
Here are the skies, the planets seven,
And all the starry train;
Content you with the mimic heaven,
And on the earth remain.
韻字――星、青、停(下平声九青)。
二〇二三年三月三日
無題








のがれて 幽荘ゆうそううち
人稀ひとまれにして おのずからのどかなり
庭前ていぜん 鳥語ちょうご
窓外そうがい 南山なんざんのぞ
空際くうさい 孤雲こうん 
林中りんちゅう 流水りゅうすい かえ
身材しんざい 古木こぼく
方寸ほうすん 仙寰せんかんいた
五言律詩。韻字――閑、山、還、寰(上平声十五刪)
二〇二三年二月二十六日
春日偶成




流鶯りゅうおう おおくして空堂くうどうたし
院裏いんり梅花ばいか 暗香あんこうはな
午睡ごすい ゆめかえりて 坐起ざきするにものう
清風せいふう とばりとおり かおはらうことなが
七言絶句。韻字――堂、香、長(下平声七陽)。
二〇二三年二月二十四日
菅廟尋梅


稿

菅廟かんびょう しゅうおおく はるすで
はなたずねて さくさんじれば 日光にっこうなり
憂心ゆうしん 稿こうてて むなしく悲嘆ひたん
瓊華けいか ひそかにつるも んぞるをんや
七言絶句。菅廟――北野天満宮。稿を棄てて――論文をrejectされた日の作。韻字――帰、遅、知(上平声五微、上平声四支)。
二〇二三年二月二十三日
偶成



漿
弱羽じゃくう 只今しこん 三十年さんじゅうねん
蟹行鳥跡かいこうちょうせき 萬余ばんよへん
いたずら典籍てんせきぞうして ること
しばらくは瓊漿けいしょうんで ねむりをんとほっ
七言絶句。韻字――年、篇、眠(下平声一先)。承句は、「鳥跡蟹行詩百篇」としたかった。改作したい。
二〇二三年二月十五日
春日偶成




院裏いんり うぐいすおお
ゆめかえりて 春日しゅんじつ ななめなり
詩書ししょ ひろげるに慵懶ようらんにして
してむ 一杯いっぱいちゃ
五言絶句。韻字――斜、茶(下平声六麻)
二〇二三年
春日偶成
西



午眠ごみん ひとたびめれば 西にしななめなり
りて 半盞はんざんちゃめる
そぞろに詩書ししょひろげて さとりをること
恍然こうぜんとしてまどへだてて梅花ばいかなが
七言絶句。韻字――斜、茶、花(下平声六麻)
二〇二三年二月十一日
自芸窓望洛中残雪




あしたき まどひらいて洛陽らくようのぞ
鴨東おうとう残雪ざんせつ 朝光ちょうこうえる
寒風かんぷう 颯颯さつさつ 書室しよしつはらえば
心地しんち 醒然せいぜん 俗慮ぞくりょわす
七言絶句。韻字――陽、光、忘(下平声七陽)
二〇二三年二月七日
無題




碧山へきざん 春色しゅんしょく おだやかにして
鳥影ちょうえい虚空こくうえる
つえりて こうべめぐらせれば
一村いっそん 煙靄えんあいうち
五言絶句。韻字――空、中(上平声一東)
二〇二三年二月四日
冬夜偶成




臘月ろうげつ かんいよいよ旧冬きゅうとうまさ
凄風せいふう 披払ひふつす 戸庭こていまつ
炉辺ろへんかこんで しばら杯酒はいしゅ
ひと胡床こしょうして 一春いっしゅん
七言絶句。韻字――冬、松、春(上平声二冬)
二〇二三年一月二十九日
冬夜読書



冬夜とうや幽斎ゆうさい 古詩こし
万巻ばんかん披繙ひはんし 何時なんどきかをわす
凄凄せいせいたる冷気れいき にわかにからだつつめば
おどろる 書窓しょそうゆき陸離りくりたるを
七言絶句。韻字――詩、時、離(上平声三支)
二〇二三年一月十九日