Vergilivs, Eclogae

IX

リュキダス
 
モエリスよ,どこへ足を伸ばすのです,道の通じる方へ,都へですか.

モエリス
 
おおリュキダスよ,こんな目に合うまで生きるとは(恐れを抱いた
ことさえなかったのだが).余所者が我らの小さな土地の持ち主となり
こう言うのだ,「この土地は私のものだ,昔の農夫は移住せよ」
それで今は打ちのめされて哀れにも――運命とは全てを変えてしまう
5

ものだからな――こうして仔山羊らをあの呪わしい男のため送り出すのさ.

LY.
たしかに私は聞いていたのですが.丘が持ち上がり
なだらかに傾斜しながら屋根を下らせ始めるところ,
水辺と古いブナの,もう打ち砕かれた梢にいたるまで
その全てを貴方たちのメナルカスが歌で救ったのだと.
10


MO.
そのとおり,噂ではそうだった.だが私たちの歌が
持つ力とは,リュキダスよ,マルスの武器の只中では
鷲が飛来するときのカーオニアの鳩程度のものでしかない.
けれどもし,前もって左側のカラスが空ろな姥目樫から私に
新たな争いを何とかして断ち切るように告げてくれなかったら,
15

君のこのモエリスも,メナルカスさえも生きてはいなかったろう.

LY.
ああ,これほどの無法が人の身に降りかかるものか.ああ,メナルカスよ,
君の慰めが君もろともに私たちから奪われるところだったとは.
そうなってしまったら誰がニンフらを救っただろうか,誰が地面に
花咲く草を拡げ,緑の木陰で泉を覆っただろうか.
20

また君が僕らのお気に入りのアマリュッリスのところへ赴いたとき,
私が黙ってこっそり聞いたあの歌はどうだろう,
「ティーテュルスよ,私が戻るまで――道は短いから――雌山羊に草を食ませ,
それが済んだら水を飲みに連れて行ってくれ,ティーテュルスよ,そしてその間に
雄山羊に出くわさないよう気をつけたまえ,あれは角で突いてくるから」
25


MO.
それよりも,彼がウァルスのために歌った未完の歌だ,
「ウァルスよ,――ただマントゥアが我らに残りさえするのなら,
ああ,哀れなクレモーナにあまりにも近いマントゥアよ――
白鳥たちは君の名を歌って天まで運ぶのだろうが」

LY.
貴方の蜜蜂の群が,キュルノス島の櫟を逃れますように,
30

苜蓿うまごやしを食んだ雌牛らが乳を張らせますように.
もし何か歌うものがあるなら,始めて下さい.ピーエリアの詩女神は
私を詩人にしてくれた.私にも詩があり,牧人たちは私をも
詩人と呼ぶ.だが私は軽々しく彼らを信じたりはしない.
だって未だ,ウァリウスにもキンナにも肩を並べる詩は語れぬようだし,
35

むしろきれいな調べの白鳥のなかで鵞鳥のように音を立てるようだから.

MO.
そうしているところさ,リュキダスよ,黙って頭のなかで思いを巡らせているのだ,
思い出せるかも知れぬから.それもつまらぬ詩ではない.
「おお,ガラテーアよ,此方へおいで.海の中にどんな楽しみがあるというのかね.
ここには色鮮やかな春があり,ここでは大地が河のまわりに
40

様々な花を咲かせ,洞窟には輝くポプラが
聳えかかり,しなやかな葡萄の木が日陰を織りなしている.
此方へおいで.狂った波には岸辺を打たせておけばいい」

LY.
では,私が晴れた夜に独りの君が歌うのをこっそり聞いた
歌はどうだろう.たとえ詞が思い出せずとも,韻律はよく覚えている.
45

「ダプニスよ,どうして古の星座の昇りを眺めているのか.
ほら,ディオーネーの裔なるカエサルの星が現れた,
畑を作物で喜ばし,日当たりの良い
丘の上の葡萄を色付けさせる星だ.
ダプニスよ,梨に接木せよ,君の子孫がその実を摘むことだろう」
50


MO.
年月は全てを運び去る,気力さえもだ.少年の頃,
しばしば長い夏を歌いながら過ごしたのを覚えている.
今はもうあれだけの歌も忘れてしまった,声さえもはや
モエリスから逃げていく.狼が先にモエリスを見つけたのだ.
とはいえ,そうした歌はメナルカスが君に幾度も心ゆくまで語ってくれよう.
55


LY.
言い訳をならべて私の望みを先送りにするのですね.
今や水面は凪いで静まり,ほら,風吹かす大気も
そのざわめきをすっかり止めてくれている.
ちょうどここからは私たちの道も半ば.ビアーノールの墓も
見え始めるところ.農夫らが茂った葉を刈り込んでいる
60

此処,この場所で,モエリスよ,歌うとしましょう.
ここに仔山羊を置くとよい,それでも都へは行けるでしょう.
あるいは,もしその前に夜が雨を集めるのが不安なら,
ずっと歌いながら行くこともできる.道の辛さは少なくなる.
歌いながら行きましょう.この荷物から貴方を軽くしてあげましょう.
65


MO.
少年よ,これ以上は止めるのだ.今差し迫ったことをするとしよう.
歌は,メナルカス自身が来たときにならもっとよく歌えるだろうから.

2016/09/21

2017/03/12


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