Pvblivs Ovidivs Naso, Tristia

I, 6


リューデーもクラロスの詩人にこれほどは愛されなかったし,
 ビッティスもまたコスの詩人にこれほど愛されはしなかった,
妻よ,お前が私の胸にとどまり居るほどには.
 お前の伴となるべきはよりよき夫ではなく,より惨めでない夫だった.
私の破滅はいわばお前という柱によって支えられている.
5

 もし今なお私が何ほどかのものであるなら,それは全てお前のおかげ.
私が掠奪されたり,難波した私の船板を狙う
 あいつらに私が身包み剥がされたりせぬようにしてくれるのもお前だ.
さながら空腹に刺激され貪婪な,血に飢えた狼が
 無防備な羊小屋に狙いを定めるように,
10

あるいは意地汚い禿鷹が,土を被らずにいる屍を
 見つけられはせぬかと辺りを見回すように,
そんな具合に,苦境にあって裏切りをはたらく或る輩が――
 もしお前が気を許していたら――私の財産を奪い取るところだった.
この男を,頼もしい友の援けを得てお前の勇気は追い払ったのだ,
15

 彼らにはどんな感謝をしても充分ということはないだろう.
こいつは惨めなだけに,お前の高潔さの真の証人となる――
 尤もこいつに何か証人としての重みがあればの話だが.
お前の高潔さにはヘクトールの妻も,
 死んだ夫に連れ立ったラーオダメイアも敵わない.
20

もしもお前がマイオニアの詩人の知遇を得ていたら,
 ペーネロペイアの名声もお前のそれには劣ったことだろう.
22

お前は高潔なる夫人らのうちに一等の地位を占め,
33

 その心の美質により注目を集めたことだろう.
34

[お前がこのことを自分自身に負い,誰の教えもなく貞潔となり,
23

 生まれつきその性格を与えられたにせよ,
いつもいつもお前が尊敬している皇帝ゆかりの婦人が
25

 よき妻の模範となるよう教えてくれて――
大きなものを小さなものと比べることが許されるならだが――
 長い付き合いを通じて自分に似た者にしてくれたにせよ.]
ああ悲しいかな,我が胸には大きな力がない,
 我が弁舌はお前の美所には劣るのだ,
30

そして以前には私のうちに何ほどかあった活力も
 長い不運によって全て消え去り潰えてしまった.
32

だがそれでも,わが名声の力が続く限りは,
35

 いつまでもお前は私の詩のうちに生き存えることだろう.

COM. ―― 1. クラロスの詩人:アンティマコスのこと. 2. コスの詩人:ピレータースのこと. 13. 苦境にあって裏切りをはたらく或る輩:nescioquis, rebus male fidus acerbis. おそらくオウィディウスの念頭には特定の人物があって敢えて名は挙げていない感じだろう.なお否定辞としてのmaleはもともと口語的なものであったのが詩的言語にまで昇るようになったらしい.„dann wird es Stilmittel, das dank seiner Versbequemlichkeit auch in die höhere Dichtung. ... Das Fortleben im Romanischen (fr. malpropre, it. malaugurato, malcontento usw.) beweist jedoch die Volkstümlichkeit dieser Verneinungsart“ (Hofmann, J. B., Lateinische Umgangssprache, Heidelberg 19513: §133). 17. こいつは惨めなだけに,お前の高潔さの真の証人となる:ergo quam misero, tam vero teste probaris. 裏切り者のみっともなさが妻の立派さを引き立てるということだろう. 21. マイオニアの詩人:ホメーロスのこと. 25. 皇帝ゆかりの婦人:Paullus Fabius Maximusの妻Marciaのこと.オウィディウスの妻は彼女と親しかった(Cf. Ov. Pont. I, 2. 138f.). 23 - 28. [お前が……にせよ.]Kenneyは,これらの行は話の流れを悪くするまずいものだとしつつも,オウィディウス自身の手になるもので後から付け足されたのではないかと疑い,削除するところまで踏み込まなかったが(‘The Poetry of Ovid's Exile’, in PCPhS 11, 1965: 41),底本のHallは[]に括って削除している.

2017/03/18


▲一覧に戻る