M. Tvllivs Cicero, Epistulae ad Atticum

IV 10


55年4月22日 クーマエの別荘にて
キケローからアッティクスへ


 [1]プテオリーではプトレマイオスが王位に就いたと大層噂になっている.君が何かもっと確かなことを知っているならば報せてほしい.当地で私の糧となってくれているのはファウストゥスの蔵書だ.もしかしたら,プテオリーやルクリーヌス湖の産物がそうだと君は思っていたかもしれない.もちろんそうしたものには事欠かないよ.しかし誓って言うが,年齢はもとより国家情勢のせいでそのほかの楽しみや喜びを離れてしまった分,文学が私を支え元気付けてくれるのだ.私としてはそちらの彼らが用意する高官の椅子よりも,君のアリストテレース像の下にある小さな椅子に座るほうがいいし,一緒に散歩せねばならないとわかっている人物と散歩するよりも,君のところで君と一緒に散歩するほうがいい.だがその散歩については運命に任せるとしよう――あるいは誰かそれに配慮する神があるのならその神に.[2]私の散歩道やラコーニア式蒸し風呂,それからその周辺設備の面倒をできる限り見ておいてほしい.ピローティムスにも急ぐように促してくれ,この手のことで何か君にお返しができるようにね.
 ポンペイウスはパリーリア祭のときにクーマエの別荘へやって来た.すぐに私のところへ挨拶を言いに人を遣したよ.これを書いたら明日の朝彼のところへ行くことにしている.

COM. ―― 1. プトレマイオス:プトレマイオス・アウレーテース.58年にエジプト王位を追われ,その後シリア総督ガビーニウスによって復位を果たした. ファウストゥス:ファウストゥス・コルネーリウス・スッラのこと.父は独裁官スッラで,クーマエに図書館つきの別荘を有したと思われる. プテオリーやルクリーヌス湖の産物:プテオリーはネアーポリス(現ナーポリ)の西にある町(現ポッツオーリ).ルクリーヌス湖は,その傍の湖で,アウェルヌス湖の南側にある. そちらの彼ら:このとき執政官であった二人,ポンペイウスとクラッススのこと. 一緒に散歩せねばならないとわかっている人物:ポンペイウスのこと. 2. ラコーニア式蒸し風呂Laconicum. Cf. CIL X, 829. ピローティムス:キケローの妻の解放奴隷. パリーリア祭:羊飼いと家畜の守護神パレースに捧げられる祭で,4月21日(つまりこの手紙の日付の前日)に行われる.

プテオリー周辺地図
プテオリー周辺地図

2017/03/23


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